<南風>海で故人を思う


社会
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 消費者の価値観が大きく変わる中で、埋葬方法も多様化し、海洋散骨が注目されている。故人の象徴として、遺灰の一部を美しい海へと送り出すセレモニーである。

 サンレーでは8年前から毎年4月に海洋葬(合同散骨プラン)を執り行っており、大切な方とのさまざまな思い出が心に刻まれる別れの場を作ってきた。取扱件数も増え、従来とは違う、新しい葬儀のイメージが少しずつ広がっているのを感じている。

 沖縄では、魂は海のかなたにある理想郷ニライカナイに還(かえ)り、私たちを見守り続けるそうである。世界中の海はつながっているため、どの海を眺めても、そこに懐かしい故人の顔が浮かんでくることだろう。

 「海」は「産み」に通じ、ラテン語でhは「海」と「母」は語源が近く、漢字の「海」の中にも「母」の1字が入っている。母なる海は、月・大地と並んで「グレートマザー」の代表的なシンボルである。古くから「母なる海」として母性の象徴とされてきた海は、全ての生命の起源となる場所でもあるのだ。

 海への散骨において「母なる海に戻りたい」という意見が多い。それは、海に対して、ノスタルジックな胎内回帰願望を持つ人が少なくないということではないだろうか。

 人はいつしか海へ還ると言われる。この星で巡りあえた「意味のある偶然」に感謝しながら、海を見る度に故人を思い出すことは、最高の供養になるだろう。

 うれしかったあの時、楽しかったあの日、そして悲しみにくれた日々。私たちが故人と過ごしたかけがえのない歳月を、まるで昨日のことのように思い出されるはずだ。

 大切な人を見送る方々にとって、葬儀という儀式が思い出深く、美しい記憶として残るような演出を目指していきたい。
(佐久間康弘、株式会社サンレー代表取締役社長)