<南風>コロナ禍の中で


社会
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 コロナワクチン接種の開始時、なかなか予約が取れないと苦情が多かったようだ。私はどうしようか迷ったが、高齢者優先の案内を受けて早い時期に接種を終えた。

 注射針がチクッと腕を刺す。その瞬間、忘れていたはずの種痘を思い出した。本土復帰前の沖縄では琉球列島を出る時、高等弁務官名で発給された身分証明書のほかに、天然痘の予防注射接種済みの検疫証明書が必要だった。針で何度もチク、チクと刺された。その傷跡は今も消えずに腕に残っている。

 5月ごろから感染者が急増し、間もなく緊急事態宣言が出された。各地でイベントの中止や延期が相次ぎ、テレワーク、オンライン授業、オンライン会議など、不自由な暮らしを強いられることになった。

 緊急事態宣言の解除はつい先月のことである。自粛がすっかり身についたせいか、町中を行き交う人たちは相変わらずマスク姿だ。

 実は本欄の第1回目に、秋には五嶋みどりの復活公演が予定されている、と書いた。主催の琉球新報社も社告のタイミングを待っていたはずだが、コロナ禍は悪化の一途をたどるばかりで先の見えない状況になっていた。

 ニューヨーク、東京、琉球新報社と何度かオンライン会議を持ったが、9月初めにはついに中止・延期が決定したのであった。友の会メンバーに電話とメールで知らせた。「待つのも楽しみにするよ」「仕方ないよ」と、落ち込む私を皆さんが励ましてくれた。

 その間、県民にとって明るいニュースが二つあった。県出身の佐藤健詞郎さんがイタリア国際コンクールのマリンバ部門で最高位。宇根康一郎さんが日本音楽コンクールのクラリネット部門で第2位に選ばれたのである。琉球交響楽団の東京初公演も、記憶に新しい。沖縄はすごい!

(新垣安子、音楽鑑賞団体カノン友の会主宰)