<南風>音楽の力


社会
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 「南風」号という列車に乗って7月から半年間の旅が始まった。これには課題があって、2週に1度は列車のあるじに文章を書いて提出する。執筆に当たって私のキーワードは、音楽と戦後史であった。

 収容所でカンカラー三線がいち早く誕生したように、うれしい時も悲しい時も、人々の心には歌=音楽があった。歌うことで慰められ、また力を得ていたのだ。音楽は祈りであり、大きな力がある。

 旅の間に、個人的体験ではあるが、戦後沖縄音楽史の一端をつづったつもりである。忘れずに記しておきたい話がある。復帰前後にスメタナ弦楽四重奏団が来沖した。圧巻の美しいアンサンブル。招聘(しょうへい)元の高江洲音楽事務所はその後も確か、ピアノのギャリック・オールソンを呼んでいる。

 これも復帰のころ、那覇高校体育館でベルリン交響楽団の演奏会があった。ブラームスの交響曲1番に感動した。ピアノのリヒテルの公演も印象深い。なぜ高額チケットから先に売れるのかと、主催者は不思議がっていたが、世界の演奏家の音楽を聴きたい、そういうファンが多いことを、この際覚えておいてほしい。ピアノのアルゲリッチやベルリンフィル、ミラノスカラ座のオペラが来沖したらどうなるだろう。

 最終回に当たって、提案したいことをいくつか挙げる。(1)「女性のためのコンサート」を企画する。県出身作曲家金井喜久子の作品を取り上げるのもいいだろう。(2)県立交響楽団をつくる。(3)県内のホールにパイプオルガンを設置する。バッハのオルガン曲など、ホールで聴けたらどんなに素晴らしいか。

 最近の県内の子どもたちの演奏を聴くと、着実に力を付けていることが分かる。そこで(4)将来の音楽界を担う子どもたちのための支援・援助を積極的に行う。以上、私の願いである。

(新垣安子、音楽鑑賞団体カノン友の会主宰)