<南風>渡り鳥の行く先は


社会
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 アカアシシギという鳥がいる。その名の通り赤い脚が印象的だ。国内では北海道東部で繁殖していて、私も根室にいたころ初めて見た。ただし数は少なくて簡単には見つからない。

 ところが沖縄本島南部の漫湖などの干潟では秋から春、普通に越冬している。繁殖のため、夏にその多くが帰る先は北海道東部ではなく、シベリアなどのツンドラ地帯なのだ。

 地球温暖化の影響は高緯度ほど大きく特に北半球では顕著だ。彼らの生まれ故郷も高温になり、永久凍土が溶けて陥没したり、メタンが噴出したりしている。そこで生きる生物は大きな影響を受け、ツンドラは決して安住の地ではない。

 このシギの英名にはCOMMON(普通の)が付いている。世界的には広く分布していてそう呼ばれている。だが世界的な気候の変化は、いつの間にか「普通」ではなくなるほど、この鳥を追い詰める可能性さえもゼロだとは言い切れない。

 冒頭、この鳥の名を見て「そんな鳥、知らない」と思った方も多いのでは。一方でトキやコウノトリ、ヤンバルクイナなら知っている方が多いのではないか。

 絶滅の危機から救おうと多くの人々が関わり、それが報道され、また人の目を引きつける容姿だということもあろう。けれど少し地味だったり小さかったりして広くは知られていない鳥で、人知れず数を減らしているものは少なくない。

 それでも鳥はまだ人目にとどまる方だ。両生類や昆虫、植物などでは、その存在さえも知られず絶滅するものが多数ある。

 減少する動植物。一体どこへ消えるのか。そのプロセスとしては気候や環境を理由にできる。けれどその生体を構成する元素(材料)が、最終的には生物としてのヒト、人の社会構造物、増加する温室効果ガスに置き換わっていることを直視すべきではないだろうか。
(河原恭一、札幌管区気象台(前沖縄気象台)地球温暖化情報官)