<南風>5分間が人生50年


社会
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 本県は四方海に囲まれた島しょ県なので、本土とは違い県内で完結する周産期(生まれる前後)医療体制を維持している。もし胎児(おなかの中の赤ちゃん)や新生児(生まれてくる子)が重篤な状態になると、1分1秒を争う処置が必要となり、県内の新生児の集中治療室に一刻も早く送らなくてはならない。なぜなら新生児は、生まれた直後の5分間の状態で、その子の人生50年が決まる。

 重篤な新生児を救えるようになったのは新生児用の人工呼吸器が開発販売された1980年前後である。救命率が上がると、逆に数少ない新生児集中治療病床を重篤な新生児が長期に占有するようになり、常に満床状態で150%を超すことが度々発生した。小さな命を救うために24時間365日入院対応している産婦人科と小児科(新生児科)の医師が自主的に集まり、今でいうワンチームの「沖縄周産期医療ネットワーク協議会」を立ち上げた。

 もし胎児や新生児に重篤な急変が起きた場合、新生児集中治療室が満床でも円滑に受け入れられるシステムを築いた。これにより本土では多発している妊婦の病院たらい回し事件は、本県では30年間皆無である。

 この功績が認められ2013年、沖縄周産期ネットワーク協議会は任意団体にもかかわらず天皇陛下に拝謁(はいえつ)できる保健分野では最高峰の保健文化賞を受賞した。当初は多忙の医師自身が県内全体の新生児集中治療病床確保に必要な情報収集していたが、那覇市医師会が事務を担うことで円滑に進み、今ではオンラインで情報収集が可能になった。妊婦や新生児の新型コロナ感染症対応にも緊密な連携をとって対応できた。本県の低出生体重児の出生率は残念ながら全国ワーストを続けているが、新生児死亡率は全国平均より低く救命率が高いことなどを関係者の方々に感謝したい。

(宮城雅也、県小児保健協会会長)