<南風>職場は人生修業の場


社会
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宮國 由紀江

 病院勤務時代の経験は、私にとってかなり生かされている。30年前を振り返ると、病気を治すために病院に入院している患者さまのことを思い出す。入院することで食欲が落ち、治療がうまく進まないことも見てきた。経済的不安、社会への不安や病気のことなどにより食欲に影響を及ぼすことを学んだ。

 食欲不振が長く続くと栄養状態も悪くなり病状が悪化する患者さまも多くいた。私が栄養士になったきっかけは、食べ物で心を癒やし元気にすることだ。そこで私が思いついた。食欲のない患者さまの食事管理に力を入れてみようと。食欲不振食という食種を病院給食に採り入れてみた。

 その方法は患者さまへ聞き取りから始まり、朝食はいつも自宅では午前10時だった、病院の食器を見るだけで食欲が落ちる、かちゅーゆーが飲みたい、オバーが作るソーキ汁が食べたい、クラッカーとジャムだけでいいなど意見はさまざまだった。私は一人一人の意見を実現した。

 自宅から食器を持ってきてもらい、集団給食では決まった食時間があるが、患者さまの要望により朝食を午前10時に出す、クラッカーと手作りのジャムを導入したことで、みるみる患者さまは元気になっていった。栄養管理をした献立や薬膳の知識で食材の効能を生かし、健康を管理することも大事だが、人の食欲はさまざまな取り巻く環境が関係することを学んだ。

 人は体調を崩した時や心が疲れた時は、昔食べた懐かしい料理を恋しくなるなど、決して華やかな料理が食欲をそそるものでもないと食欲不振食を作って感じた。その土地の先人が残した食文化がとても重要であり、それと同時に幼い頃の味の記憶も大事である。幼い頃の食育は人生に大きく影響する。このようなことを私が社会人になり仕事を通して学ぶことができた。

(宮國由紀江、国際中医師)