<南風>今帰仁花物語


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 今帰仁に来て23年目の昨年、これまで仲原前館長や地域の方々に教えていただいた「今帰仁の宝物」を自分の言葉で伝えたくて「ムラ・シマ講座フォービギナーズ」をスタートさせました。毎回一つの字(あざ)の基本的な場所―ウタキ・神ハサギ・湧泉(ハー)・集落などを回り、その字の「人柄」が描ける説明を考えます。

 大変だけどワクワクするのは、資料作りです。ムラの歴史、ムラ名の意味、集落の成り立ち、地図。どんな風に書けばビギナーズさんたちに分かりやすく伝えられるだろうと、あれこれ考えるのが楽しくて仕方ありません。また資料は家に帰ってからもう一度ムラをたどるための「証拠物件」。力の入れどころです。
 資料を作りながら、今回はどこに連れて行こうか、あっちもこっちもここも連れて行きたい! きっとみんな驚くだろうなぁ、感動するだろうなぁと想像するだけで、自然に顔がニコニコしてきます。
 当日現場に立って、それまでただの「そこ」でしかなかった場所から「物語」を発掘し、「ほら見て!」と差し出し、みんなが「物語」に出会った感動に立ち会える喜びと言ったら! 今帰仁から受け取った輝く花々を、また今帰仁の人たちに手渡せる喜びと言えるでしょう。
 これからは諸志(しょし)ウタキの木のトンネルをくぐるとき、仲宗根政善先生のウガミの文章が心に涼やかな風を送り、天底(あめそこ)のバス停を過ぎるとき、昭和レトロな井戸と目が合うに違いありません。
 シマの空、地、水に流れる息をつかまえると、太古から伝えられていた「今帰仁花物語」の声。声を聴くことは、シマが命を取り戻すこと。
 ビギナーズ一行は月に一度、今帰仁を旅しながら、ここに暮らす自分自身の花物語に、滋養たっぷりの水遣(や)りをしています。
(石野裕子、今帰仁村歴史文化センター館長)