<南風>地に花を見る人


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 バス停「今帰仁城跡」の前に、その小さな塾はありました。「数学ボランティア教室共学館」。講師は仲尾次芳則先生。「算数キライ」な母に似たわが息子も、お世話になりました。

 仲尾次先生は今帰仁村今泊(いまどまり)生まれ。長年郵便局に勤められ、55歳のときに退職。現在67歳です。
 退職後、数学が苦手なめいっ子ちゃんに勉強を教えるうちに、その子の成績がグングン伸び、お友だちを連れてくるようになったことが「共に学びあう」塾を始めるきっかけでした。
 専門家でもないからということで授業料はタダ。1年生、2年生、3年生とクラスが増えると、授業の準備も大変でした。でも「子どものやる気に応えるのがうれしいし、生きがい」と、人工透析をしながら、塾を続けてこられました。
 学校に行くことができなかった子が、ここなら安心して来られると、先生のあったかい腕の中で学び、奥さんの恵美子さんの優しい笑顔に励まされて、無事高校に合格。「どの子にも見事な根っこがあり、花を咲かせる力がある。僕はそれを教えてあげるだけ」
 仲尾次先生、母親として、地域の一人として、先生が子どもたちに注いでくださった「キミはいい子。どこまでもいい子」のまなざしに、心から感謝いたします。みんなここで、学びを通して守られて、80人近くの子が巣立ち、昨年、塾は10年の幕を閉じました。
 愛情の深い喜びの内に、静かに地道に種をまき、天に花を咲かす人がいる。地に花を見いだす人がいる。「お母さん、子どもは絶対人前で叱らないで。応援しているからねと、ポンと背中をたたいて送り出せば、子どもはちゃんと歩きます」
 仲尾次先生の手は、大人の私の背中にもあったかい。見えないところで子どもを信頼し、地域を耕し続けてきた手の贈り物です。
(石野裕子、今帰仁村歴史文化センター館長)