<南風>御嶽の鍵と神様の安寧


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 8月21日(旧盆明けの最初の亥の日)、古宇利島で海神祭(ウンジャミ)が行われました。白い神衣装を着た神人(カミンチュ)たちは、それぞれ唐船旗(トーシンケージ)と弓(ヌミ)を持ち、頭にはリュウキュウボタンヅルで編んだ、白い花の冠をかぶります。真夏の太陽の下、厳かに祭祀は進行していきました。

 神行事で神人たちが祈るのは、作物の豊穣や村人の健康と繁栄。そして、シマの神さまへの感謝です。
 神さまは、御嶽(ウタキ)と呼ばれる山に降りてきます。神木を伝って御嶽に降り立った神が、最初に地に足を着けた場所(神さまに足があるかどうかはさておき)。ここが御嶽の中の最も聖なる場所で、イビといいます。
 御嶽は村人の立ち入りが禁じられ、神人でさえ、祭祀以外の日に御嶽に入ることはありません。数百年以上ものあいだ、御嶽は神聖な空間として、シマの人々によって、祭祀(さいし)とともに守られてきました。
 ところが、古宇利の御嶽には、数年前から鉄の門が設けられ、鍵がかけられるようになったのです。えっ、神さまのおうちに鍵がかけられているって!?
 2005年に古宇利大橋が架かった後、パワースポットブームがおき、たくさんの人が御嶽に入り込むようになりました。御嶽が荒らされ、神聖さが失われることを危惧して、島の人々は御嶽に鍵をかける決断をしたのでした。
 御嶽はパワーをもらいに行く場所ではなく、島の人々が神に感謝をささげ、島の平和を祈る聖地。そして、古宇利の神さまが人々の感謝に応え、島を見守ってきた静かな杜です。鉄の門も鍵も、御嶽の風景には似合いませんよね。
 でもいま神さまは、鍵のかかった御嶽の中、長い歴史の間に降り積もったシマンチュの思いに包まれて、安心して過ごしておられるのかもしれません。次の祭祀まで、ゆっくりお休みくださいね。
(石野裕子、今帰仁村歴史文化センター館長)