<南風>平和の花


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 今年もキバナノヒメユリが咲いた。那覇市繁多川公民館を拠点に地域ぐるみで自生地保全と里親に取り組んでいる。沖縄と長崎に自生し、絶滅危惧種であるこの花に、地域の方は7月から9月の開花期を楽しみに愛情を注いでいる。

 世界中には絶滅している動植物が年間4万種あるという。一部の動植物が絶滅しても生活が一変するわけではない。しかしどこか空虚感が残る。なぜ絶滅してはいけないのだろうか、と問うてみる。「生物多様性」「地球にやさしい」など理由は分かるが、ストンとこない。

 ただ以前、自然環境破壊にショックだったことがある。慣れ親しんだ海に、埋立計画があると聞いた時だ。まだ完全には埋め立てられていないその海に、この夏は家族で何度も通っている。私がそうしてきたように子どもたちや妻もカニや魚などを追いかけ、あわよくば晩のおかずに加えようと必死だ。

 ショックの理由は、そのような遊びや暮らしの中で生かされた私の経験からきている。海だけではない、山や川、沿道でさえ桑の実やバンシルーなどを見つけては家族でいただいている。甘くておいしい食物が簡単に手に入る昨今、季節の狩猟採集物がおいしい、と思える家族もまた絶滅危惧種かもしれない。

 楽しいからなのだが、自然の循環の中に人の暮らしがある実感が、持続可能な時代を切り開く力や開発への判断力になると思う。そして「絶滅」に脅かされる種に共感することと無関係ではない。

 里親の方が作詞したキバナノヒメユリの歌がある。後尾には「心を繋(つな)ぐ村おこしの花、御万人(うまんちゅ)の心を癒(いや)す平和の花」と並ぶ。私たちは歌う。沖縄の歴史を見てきた花が、今日もここで生きていることは私たちの暮らしそのものなのかもしれない。
(南信乃介、NPO法人1万人井戸端会議代表理事)