<南風>直球か遠回しか


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 年に数回、ラジオの仕事でお世話になった先輩方と酒を酌み交わす。数年前に定年退職した先輩だが、今でも彼らを慕う仲間数人が集まって会を開いている。今日は中心的人物の一人である、ディレクターH氏のコミュニケーションの取り方について書きたい。

 小上がりのある居酒屋でのことだ。私たちは仕切りのない掘りごたつのある小部屋で、乾杯をした。そこへ若い女性店員が両手に大皿に盛られた料理を持ってやって来た。土間のところで腕を伸ばして料理を差し出す。それに気付いた私たちは料理を受け取った。

 「おねえちゃん」と、A氏は声を掛けた。「面倒くさがらずに中に入って、自分で料理を持って来なさい」と、言葉を続けた。私たちは互いに目配せをして「あ~あ、また言っちゃったねー」と合図を送った。

 H氏は厳しい人だが、とても人情味のある人だ。長い間一緒に仕事をしてきた私たちは彼の人柄をよく知っている。しかし、相手はたまたま出会った店員だ。どう受け止めるか分からない。今の時代であれば、職場で同様なコミュニケーションを取るとパワハラになってしまうかもしれない。

 相手に苦言を呈する際は、「アサーティブな表現」をするのが望ましいとされている。相手にできるだけ不快な思いをさせないような遠回しの表現だ。

 では、H氏はコミュニケーション下手かというと、一概にそうだとは言えないと思う。ストレートな表現は相手の心を動かし、行動を変えることがあるからだ。相手の感情を気遣うアサーティブな伝え方は、周りの雰囲気を壊さないが、相手の人生を変えるだけの力は持たないように思う。

 コミュニケーション上手とはどういうことか、考えさせられる出来事だった。果たして、皆さんは、H氏のコミュニケーションをどう受け止めただろうか。
(吉田文子、コミュニケーションカウンセラー)