<南風>最高の老人になるために


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 人の話を聞いて文章にするのが私の仕事なのでさまざまな体験談を読むようにしているのですが、ときどき笑えない状況の笑っちゃう話が記録されていることがあります。

 たとえばハンセン病のために故郷を離れ、離島から一人寂しく愛楽園に入所するはずが、まさかの道間違いをした男性の話。

 バス停を降りてまっすぐと言われたので言われたまま行くのですが、屋我地島に向かわずに国頭に向かってしまいます。塩屋で道行く子供に教えられた時のガッカリ感ったらありゃしない。泣ける入所秘話ではなく、やけくそ入所秘話。

 これは話し手によるのですが、どうしても面白く話してしまう、しんみりしたいのにできない人がいます。

 もう一つ思い出すのは、戦争中、姉の嫁ぎ先の年老いたおばあちゃんを背負って、南部戦線を生き抜いた男性の話。

 あの戦場です。大変、感謝されたと思ったら、そのおばあちゃんが収容所で一言。「あんたは私のおかげで助かったね」

 なんちゅうババアだ。でも、こういうおばあちゃんいますよね。男性を気の毒に思いながらも笑ってしまいました。

 と、その体験談について父に話すと「いや、そのおばあちゃんが当たっている。自分だけの命だったら諦めていたかも」。なるほど。

 そういえば、ある会議で遅刻者を待っていると年配の女性が一言。「遅れている人に感謝だね、時間どおりに来た私たちが褒められるからね」

 沖縄の先輩方は侮れません。とっぴな発言のように思えても、底に流れる思想の豊かさにハッとします。

 いつの日か私も年老いて介護を受けながら、あのおばあちゃんのように、「私に助けられてるね」と言える最高の老人になりたい。
(宜寿次政江、HIV人権ネットワーク沖縄副理事長)