<南風>言葉の奥行きを読む


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 カフェで、隣の席の女性2人の会話が耳に入った。

 「最近、あのレストランの雰囲気、変わったわね」

「そうそう、大好きだったメニューが無くなっていてすごくがっかりしたわ」

「私は前のクラッシックな雰囲気が好きだったな」

「どうしてメニューを変えたのかしら?」

 あなたはこの2人の会話をどう思っただろうか。

 先に話し掛けた女性の、レストランの「雰囲気が変わった」というのは、インテリアが変わったということを伝えたかったのだろう。しかし、もう1人の女性にとって、「雰囲気が変わった」というのはインテリアではなく、メニューが変わったことだった。言葉の表現として正しいか正しくないかは問題ではない。相手がどんなつもりでその言葉を話しているかが重要だ。

 先ほどの会話を文字にすると、話がかみ合っていないのがよく分かるが、実際にはお互いにうまく修正しながら雑談していくので問題はないようだ。

 しかし、大切な話し合いや仕事の場面で同じことが起きたとしたら厄介だ。

 「言った」「言わない」のもめ事に発展し、人間関係がうまくいかなくなる可能性がある。職場での評価も下がるかもしれない。

 人は、自分が使っている言葉と、相手が使っている言葉は同じだと考えがちだ。しかし、実際は、一つの言葉から受けるイメージは人それぞれである。例えば、「少しの時間」という言葉から浮かぶ時間は微妙に違うだろう。同じ言葉を使っていても、一人一人の人生経験が違うので完全に一致することはないのだ。

 特に重要な場面では、相手はどんなつもりでその言葉を使っているのか、ゆっくりと丁寧に相手の背景を考えながら対話することが大切である。コミュニケーション上手な人とは、聞き手に合わせた話し方ができる人である。
(吉田文子、コミュニケーションカウンセラー)