区民の4分の1が沖縄出身と言われる大正区では、大阪の固有の文化と沖縄文化が両方存在しています。
二つの文化の間には壁があります。「自分の文化が正しい」と壁の中に閉じこもると正しさを守ることはできても孤立します。「相手の文化がおかしい」と壁を壊し、相手の領域に踏み込んでいくと対立が生まれます。大切なのは、お互いの壁の中の個性を互いに尊重した上で、壁と壁の間で互いに一歩踏み出して一緒にできることを考えることです。
文化の違いから長年の軋轢(あつれき)があった大正区で、伝統の重みや集客力といった沖縄文化の持つ多様な価値の認識を広めようと2012年にスタートした「おきナニワん」プロジェクト。最初に取り組んだのは、沖縄と大阪「ナニワ」の食材をコラボさせた「おきナニワんフード」でした。第1作目「おきナニワんうどん」は、区内のうどん専門店と沖縄料理店が協力して、大阪のきつねうどんと沖縄そばを合わせて作りました。
意識したのは、大阪料理でも沖縄料理でもない「なんだそれは」と笑ってもらえるようなものにすること。壁と壁の間に互いに踏み出す一歩を「笑い」の力で引き出したいと思いました。
これらの考え方を教えてくれたのは、大正区の関西沖縄文庫主宰の金城馨さんです。片方が他方をのみ込む「融合」ではなく、違いを認め合い共にできることを探す。これを馨さんは「異和共生」という言葉で表します。異なったままで、和やかに、共に生きる。行政と民間や地域が協働する際にも基本となる、とても大切な考え方と思います。
「おきナニワんフード」は後に40種類を超え、大正区沖縄文化をPRするユニークな手段となりました。
相互理解が必要な時の知恵として、「異和共生」の心が広がることを願います。
(筋原章博、大阪市大正区長)