<南風>味噌汁の冷めない距離で


社会
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 給食が船で運ばれていく。私は、座間味島から阿嘉島へ向かう同じ船の中で揺られていた。私からすると、船に乗ることは旅である。地元の人はまるで「味噌(みそ)汁の冷めない距離」にいるかのように島を行ったり来たりしている。海が島を隔てているのではい。海が玄関口となり、暮らしをつないでいるのだ。

 同じ給食をいただく圏内、沖縄県、日本、海外とさまざまなスケールで人とモノが行き交う。最近、勝連城で古代ローマのコインも見つかっているように交流・交易は沖縄の発展の歴史であり、潜在能力を示している。那覇に戻る船の上で考える。人の移動が「家族」という最小のコミュニティーにどんな影響があるだろうかと。

 NHKスペシャル「ママたちが非常事態」を思い出す。人類の進化の中で狩猟採集を中心としたコミュニティーで育てる子育てと、移動を伴い、核家族中心の現代の育児環境では大きな溝があると指摘していた。人類・人生史上初心者で、子育てに悩むのは当然だ。自分を責める必要はない。沖縄の子どもを取り巻く貧困や孤立も無関係ではない。

 番組を見終わると、妻は言った「それで、どうしたらいいの?」。地域・家族でできることは何か。転勤の多かった家庭で育った妻自身の言葉からヒントをもらう。「何があっても守ってくれると信じきれる」家庭があったと。強い正義感と他者を思いやる気持ちが人一倍ある。愛情を感じ取り、親の後ろ姿から人生を選択していったように見える。安心できる家庭を築ければ、あとは人の学び育つ力を信じたい。

 県民、県外、海外の人を孤立させず、子どもや親に寄り添う地域拠点とつなげ、地域の力に変えたい。それはきっと「味噌汁の冷めない距離」という言葉が実践される温かいコミュニティーだ。
(南信乃介、NPO法人1万人井戸端会議代表理事)