<南風>究極のコミュニケーション


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 そこは、創業129年のホテル。清潔感のある空間に厳選された落ち着きのある調度品。ロビー中央には季節の花がぜいたくに飾られている。日常の雑事を忘れ、リフレッシュできるのもホテルの魅力で、役割かもしれない。老舗ホテルで出会った、究極のコミュニケーションの話である。

 忙しく立ち回るホテルマンの動きを、ラウンジでお茶を飲みながら注意深く見ていた。ホテルを訪れる客が部屋に向かうまで、4人のホテルマンが関わっていた。まず、正面玄関にタクシーが到着すると、客が降りやすいように手助けをする係。次に客の荷物を預かりフロントへ誘導する係。フロント近くで空いている受け付けに客を案内する係。そして、チェックインした客を部屋に案内する係の4人だ。この一連の流れがあまりにスムーズで驚いた。

 客をフロントへ案内している途中のホテルマンに、地図を持った別の客が声を掛けようとする。すかさず別のホテルマンが対応する。見事なチームワークだ。刻一刻と変化する周りの状況に常に気を配っているからこそ、できる動きだろう。

 ホテルマン同士が直接言葉を交わすことはほとんどなく、ちょっとした動きや目配せで合図を送っている。まさに「あうんの呼吸」である。さらに、心奪われたのは、彼らの動きの美しさだ。どんなに急いでいても靴音を立てて歩くことはしない。焦りの表情も見せない。紳士の振る舞いだった。

 このようなチームワークを実現するには、お互いが考えていることをとことん話し合い、互いの考えをすり合わせて差異を小さくしていくことが必要に違いない。相手の微妙な気持ちに気が付くようになれば、言葉だけに頼らないコミュニケーションが図れるようになるのだと、はっと胸を突かれた出来事だった。
(吉田文子、コミュニケーションカウンセラー)