<南風>スター誕生秘話


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 「スターは遅れて登場する」。確かにそうです。今年のマドンナのライブは、2時間遅れで始まり話題になりましたね。さて、10月に生まれた私の子。予定日より11日遅れで登場した彼も、この説通りに大スターです。私にはマドンナのマネジャーの気持ちが分かります。

 出産予定日の前日から、親族、友人らの「どうなんだ、いつなんだ」という脅迫電話やメールに「すみません、もう少し待ってください」と債務者のように返事を返す日々。親とは謝罪がうまくなるものなのです。

 思えば妊娠してからはずっと脅迫めいた言葉と闘ってきた気がします。

 最も言われたのが、「運動しないと難産になる」というもの。文化系の私にとって運動とは呪いの儀式でしかなく、できることならやりたくない。それに、そんなに言われたら反骨精神に火が付き、逆に運動しない決意が固まってしまう。

 それでも何度かは脅迫に屈して、クーラーのきいたイオンモールをぐるぐると歩きました。歩いていると、チベット仏教の寺院で、お経を唱えて仏像の周りを歩く僧侶を思い出しました。親とは修行僧なのです。

 修行の祈りが通じたのか「あの人は難産になる」という大方の予想を裏切って、結果は2時間少しの安産。まあ何というか、脅迫者たちよ、ざまあみろ、というところでございます。

 こうして生まれたわが家の大スター。授乳しろ、抱っこしろと24時間スター気取り。親とは奉仕の極みなのです。

 こうして、やっと眠りについたスターを胸に抱いて安堵(あんど)していると、ふと、沖縄戦で幼子を失った方の証言を思い出しました。そして、この瞬間もシリアの空の下で同じ悲劇が起こっています。涙が出ました。親とはそういうものなのです。
(宜寿次政江、HIV人権ネットワーク沖縄副理事長)