<南風>未来へつなぐために


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 先月下旬、寒さが増すウクライナから一気に温暖な気候が一年中続くフランス、ミディ・ピレネー地方へと移動しました。仏南西部に位置するミディ・ピレネーは、地中海と大西洋に挟まれたのどかな農村風景と緩やかな丘陵地帯が続きます。その先には3千メートル級のピレネー山脈がスペインとの境を形成しています。

 私が訪れたタルン県は、八つの県で形成される同地方の一県で、沖縄県の2倍ほどの面積に人口38万人、近くにはサンローラン・デ・ゾー原発があります。

 私の活動拠点はウクライナの他、全発電量の75%を原子力で賄っているフランスで、ひと度、原発事故が起きれば甚大な被害をもたらすことやトイレ無きマンションと比喩(ひゆ)される核のゴミ処分問題を知ってもらうために、チェルノブイリや福島の実態を伝えています。

 今年5月、パリで福島支援活動を続ける友人に紹介され同県を訪れました。そこで地元ボード・バス高校に通う理科系生徒180人を対象に授業を行なったことで、先生たちとも交流ができました。そのご縁から今回で5回目を迎える日本祭があるので、「チェルノブイリを通して福島の未来を語る」というテーマで写真展と座談会を持ちかけられ、チェルノブイリ調査の帰りにタルン県を訪れたのです。

 チェルノブイリ30キロ圏内に暮らす老人達を撮影した写真の解説を作っているとき、ふと、閃(ひらめ)くものがありました。それは、現実を知り、将来に渡る問題を解決するためには、若者が事実を知るところから始めなければならないのではということです。そう、高校生が自分たちで調べ、学び、自らが放射線の教科書を作ることで、若者の視点による新たな教科書ができないか。

 こうして、フランスでも未来につなぐ若者たちを教育することが始まりました。
(木村真三、放射線衛生学者)