<南風>ロジャー・バニスターを探して


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 人は時に結果を変えるほど、他人の経験にインスパイアされる。今日は、私が強く触発されたストーリーを紹介したい。

 『1マイル4分』。かつて、陸上競技界で「レンガの壁」と呼ばれ、「超えられないもの」と考えられていた記録。歴史上、誰一人到達することができず、1マイル(約1600メートル)4分を切ることは、人間には不可能だと、専門家たちは断言していた。

 しかし、1954年5月6日、イギリス出身のロジャー・バニスター選手が、1マイルを3分59秒4で走り、世界で初めて『1マイル4分』の壁を破ったのだ。その記録は、それまでの常識を覆し、世界に衝撃を与える出来事となった。

 このストーリーの面白いところは、ここからだ。

 ロジャー・バニスター選手が『1マイル4分』を切った46日後、彼の記録は破られた。さらに、1年以内に、23人の選手が『1マイル4分』の壁を破ったのだ。

 いったい、何が起こったのか?

 23人の選手は、もともと『1マイル4分』を切る可能性を持っていたはずだ。しかし、「不可能」だという思い込みによって、自信が持てず、可能性を発揮できずにいた。ところが、バニスター選手がそれを「可能なもの」と証明した途端、彼らの自信は確信へと変わり、可能性を最大限に発揮することができたのだ。

 「不可能」だと思っていたことを、「可能なもの」だと知る行為が、こんなにも力強いパワーを生むのかと、私は衝撃を受けた。

 新しい挑戦を前に、自信を持てず、なかなか行動に移せないことがある。そんな時に、このストーリーを思い出し、自分が挑戦する分野のロジャー・バニスターを探すようにしている。

 そして、いつか私も、誰かのロジャー・バニスターになれるよう、前進していきたい。
(比嘉具志堅華絵、ハワイ沖縄連合会会員、『SHINKA』副会長、1級建築士)