<南風>救急病棟24時


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 幼い時から視力以外は健康に問題のない私。この恵まれた体質を生かそうと献血に行き、針を刺されて2秒で気を失ったという記録保持者でもあります。

 白衣の天使があきれ気味に「無理して来ないでいいですよ」とヤクルトをくださったこと、今では青春の思い出です。

 そんな健康優良児な私が先日の夜、39度の発熱。救急病院に行くというビッグイベントがありました。病院の待合室は満員でうつろな空気が漂っています。テレビからは場違いな笑い声が流れていました。

 と、その空気を切り裂くような大きな声で車いすのおじいさんが看護師に向かって、まさかの「タバコ吸ってもいいかね」。昨今の禁煙ブームの中、すごい一言をぶっこんできました。

 「ダメです。外で吸ってください」と看護師。そりゃそうだ。待合室の全員が思いました。しかし、おじいさんも負けません。

 「歩けんのに、どんなやって外に行くか」。そうか歩けないのか。もう待合室はテレビどころではありません。二人が視聴率を独占中。

 「どうやって来たんですか」。すると、おじいさん「タクシーで」。歩けるんかい。待合室の全員が心の中で突っ込んだでしょう。看護師は何も言わずにその場を離れました。

 すると、おじいさんはその場でタバコを吸い始めましたが、すぐに事務員に車いすを押されて外へ出て行きました。見送る待合室に流れる不思議な一体感。

 それにしても欲求の満たしっぷりがすごい。恐れがない。末恐ろしい人物です。末があればの話ですが。

 さて、今年もあとわずか。年末におじいさんに出会えたことに感謝します。来年も「あの御夫婦、ご主人は良い人だけど奥さんがね…」という声を恐れず、自分らしく生きたいと思います。
(宜寿次政江、HIV人権ネットワーク沖縄副理事長)