<南風>障がい者を支えるテクノロジー


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 小学生の頃、帰宅すると母は決まって食卓テーブルに向かい熱心に打ち込んでいた。傍らには開いた本、手に針状の道具を握り、厚めの白紙の上に縦3点、横2点の計6点の組み合わせで、一穴ずつ視覚障がい者のための点字を打っていく。1マスに6点全てで「め」と読む。

 かな表記の点字本は、薄い文庫本でも3回の校正を経て完成までに3カ月、通常の本の3倍以上の厚さになる。ボランティアで始めた母は人に教えるまで上達し、点字図書館に並ぶ書籍や学校の教科書、試験問題も手掛けるようになった。

 その後、点訳ソフトの出現で作業は飛躍的に短縮化する。手打ちだと1字でも間違いがあれば残り全ページやり直しとなるが、パソコンで打つ点字はかな文字として画面に現れるので誤字を発見できる。また、完成した点訳本のデータは専用プリンターで増刷可能となった。

 技術革新は聴覚障がい者の生活も支えている。昔の補聴器は耳にかけるのでなく、左右の胸ポケットに入れて使うタイプだったらしいが、職場の同僚は幼い頃、「おっぱいみたい」と周りに揶揄(やゆ)されたという。県外の大学で建築工学を学び、卒業後は東京・長野・福岡で10年間設計の仕事に従事した彼。遠隔の友人とはテレビ電話を通じて手話で会話していたそうだが、月額通信料が8万円に上ることもあったらしい。今利用しているのは、もっぱらスマートフォンの無料アプリのビデオ通話だ。

 相手の唇の動きを見て内容を理解する読話を得意とする同僚だが、話し手によっては苦労する。そこで登場するのが相手の声を拾い、リアルタイムで画面上に字幕を作成する音声認識アプリだ。ただ、一つの単語が数通りの漢字で表記される日本語は、「南風」が「蝿(はえ)」になりかねない。テクノロジーの発展に期待したい。
(名取薫、沖縄科学技術大学院大学広報メディアセクションリーダー)