<南風>島への思い深める挑戦


社会
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 今、お借りしている家の屋号は「アグナシチ」という。漢字にすると、「粟国屋敷」。かつて久米島を統治していた伊敷索(ちなは)按司の側室で、粟国島出身の女性が住んでいた敷地であることから、この名が付いた。

 その按司時代の史実に基づいた久米島現代版組踊「月光の按司笠末若茶良(がさしわかちゃら)」の舞台公演が19日の日曜日にあった。尚真王による久米島征服前夜、さまざまに交錯する島の人々の思惑や、按司一族の家族模様などを織り込んだ歴史ドラマを島の中高生が演じた。

 今年で4年目となるこの舞台だが、最初はたった3人の高校生の熱意から始まった。それが町を動かし、県内各地で現代版組踊を展開するタオファクトリーの指導を受け、昨年は那覇市民会館で千人超の大観衆の前で堂々と披露するまでになった。

 大人たちはみな、「島の子どもたちがこんなふうに人前で踊ったり演技をしたりできるとは思わなかった」と驚く。確かに、舞台上でスポットライトを浴び躍動する姿は、学校や家庭で見るのとはまた違う一面かもしれない。

 でも、それはきっと、これまでできなかったわけではなく、やる機会がなかっただけ。チャンスさえあれば、子どもたちはさまざまに興味を広げ、才能を開花させていく。

 そういうチャンスに関して、沖縄はとても豊かだと思う。伝統芸能も盛んだし、現代版組踊のような新しいものもある。海などの自然も身近にあるし、アジアの諸外国にも近い。離島であればなおさら、こうした沖縄ならではの選択肢が多様かもしれない。

 粟国屋敷で生まれたという若茶良は、久米島の発展を思い、民からも慕われる按司だったという。今の子どもたちにも、さまざまなチャレンジをしながら、島への思いを深めてもらえたら、と思う。
(山城ゆい、久米島高校魅力化事業嘱託員)