<南風>ショートヘアのマーチ


社会
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 「あれっ」。ある夜、うつ伏せて雑誌を読んでいると、右胸に妙な痛みを感じた。叔母の乳がんの話を思い出し、翌日、評判を聞いていた病院へ急いだ。マンモグラフィや超音波検査の後、先生が神妙な顔つきで、がんの疑いを説明した。すぐさましこりに針を刺し、取り出した細胞の精密検査を行う。予感は的中し結果は、初期乳がん。脇にも転移が見つかり、ステージは1・5。とっさに家族や仕事のことが頭をめぐり、パニックになったが、先生の丁寧な説明で徐々に落ち着きを取り戻し、私の抗がん治療は始まった。

 生活は一変した。白血球の減少で抵抗力が弱まり、食欲が落ち、横になっていないとつらい日もあった。一方、社員たちは私の分まで仕事を仕切り、お昼に私のスープを作り、がん闘病者でも仕事がしやすい環境を整えてくれた。4週間ほどたつと、毛髪がぬけ落ち、まるでホラー映画のよう。「ムダ毛のお手入れが省けていいのよ」と、カラ元気に言う私を社員たちはやさしく微笑(ほほえ)みで包んでくれた。腫瘍摘出手術に続き、放射線治療を受け、終了と思いきや、もう1年の延長戦にもつれ込んでしまった。現在は副作用の少ない抗がん剤の服用と、3週に一度の点滴をしている。しかし、頭の毛はだいぶ増え、ショートヘアも板についてきた。

 治療中、病気のことをいったいどれだけの人に話したらいいか、とても悩んだ。内緒にしようとも思ったが、外出するとカツラに気づかれ、その都度、説明しなければならなく、結局、SNSに写真と近況を投稿した。その後は、どなたにお会いしても自然に接することができ、また多くの方々に励ましやサポートをいただいた。皆さんに支えていただいた命、この人生のボーナスを、世の中、社員、お客様、家族のために輝かせたいと思っている。一歩一歩を大切にしながら。
(石原地江、有限会社アンテナ代表取締役)