<南風>110年ぶりの改正


社会
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 先週13日に実に110年ぶりに刑法の性犯罪規定が全面改正された。現在日本で使われている刑法は明治40年に作られたものだ。古い法律が何でも悪いということはないが、明治時代と現在では社会の中の価値観が全く違う。

 刑法には様々な権利を侵害する罪が規定されている。現在はその中で最も重要な権利は個人の生命である。しかし、刑法が作られた時代には、最も重要な罪は皇室に対するものであった。親子間においては、直系尊属(親、祖父母、曾祖父母(そうそふぼ)など)を殺す罪は他の人を殺すよりも重かった。

 また、夫婦間では、妻のいる夫が不倫をしても、むしろ「男の甲斐性(かいしょう)」とされていたが、夫のいる妻が不倫をすれば、「姦通(かんつう)罪」として不倫相手の男性ともども刑法で処罰されていた。これらの条文は削除されているものの、全面改正しない限り、今とは違う価値観が法律の至る所に残っている。

 これまで性犯罪は、基本的に「親告罪」であった。親告罪は被害者が刑事罰を求めて告訴しない限り事件化しない。性犯罪が親告罪であった理由は、性犯罪の被害にあったことは他人に知られたくないだろうし、恥ずかしいことだから、告訴するかどうかは被害者が決めて良いというものであり、被害者のためだとされていた。しかし実際にはこの考えこそが被害者を苦しめてきた。時に家族や親しい友人からも、大ごとにしない方があなたのためだと言われ、泣き寝入りを強いられてきたのである。

 性犯罪も、他の犯罪と同様に、悪いのは加害者であって被害者ではない。被害を届けるのに何ら恥じる必要はないし、加害者のやり得を許してはならない。今回の全面改正で、性犯罪被害にあうことは恥ずかしいことだという価値観を廃し、性犯罪を「非親告罪化」した意義は大きい。
(矢野恵美、琉球大学法科大学院教授)