<南風>沖縄の懐


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 本物になりたい。道を極める人なら誰しも思うことだろう。民謡の世界にも数々の協会があり、コンクールという名の唄三線の実技試験がある。琉球國民謡協会に在籍する私は、19歳で教師免許を取得し、今年初めに師範試験に合格した。

 先日、新人賞・優秀賞・最高賞部門のコンクールが開催された。私が指導している東京、大阪の生徒さんも多数受験した。彼らの沖縄に対する想(おも)いは熱い。うちなーんちゅの私も驚くくらいだ。

 三線の稽古に励み、使い慣れないうちなーぐち(沖縄方言)に苦戦しながらも、唄と真摯(しんし)に向き合っている。受験者は新調した着物に身を包み、女性は琉装特有のカンプー(髪結い)をし、お化粧をバッチリと決めて試験に臨む。「思いっきり唄ってらっしゃい」。本番直前、私の言葉に頼もしく頷(うなず)き舞台へ。

 舞台の前には審査員の先生方が、ずらり。その後ろには観客が、ずらり。会場内からも緊張感がひしひしと伝わって来る。一番緊張しているのは受験者だが、見守る側も鼓動が速くなる。演奏が終わり、舞台袖に帰ってきた時の表情が何とも印象的だ。安堵(あんど)からくる笑顔だったり、悔しがる眉間のシワ。感極まり涙を流す生徒も。それぞれの物語がこの数分に込められている。

 試験を終えて、本土の生徒さんが言った。「沖縄の血は流れていないが、本物になりたい」と。私は、その真摯な情熱と尊敬があれば既に唄者として本物だと思った。

 音楽は自由である。ギターやヴァイオリンも、楽器そのものが生まれた地から飛び出し、今や世界中で愛されている。唄に込められた魂も、良いものは皆で共有する。チャンプルー文化で歴史を築き上げてきた沖縄は、懐が深いはずだ。そう私は信じている。皆さんはどう思いますか?
(上間綾乃、歌手)