<南風>歌い続ける理由


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 なぜ歌い続けるのか。ラジオ出演時や取材などで多くその質問を受ける。その度に困りながらも、頭をフル回転させて言葉を振り絞る。

 思いが内側から溢(あふ)れ出るから。歌を必要としている人の力になりたいから。何がどうなろうと歌い続けなければならないから。見えない何かに突き動かされているような感覚もある。使命だとも感じている。

 震災後、イベント出演のために仙台を訪れた。会場に向かう車中で、私は外を眺めていた。瓦礫(がれき)や基礎だけになってしまった家々が後ろに過ぎていき、胸が締め付けられて苦しくなった。言葉に表せない悲しみが襲ってくるようだった。この現実を写真に収め、みなに知らせようと思ったが、私はシャッターを切ることができなかった。

 丁寧に言葉を綴(つづ)り、愛と祈りを込めて歌い、温かな拍手の中ステージを降りた。終演後CDサイン会での出来事。一人の女性の言葉が今でも忘れられない。「震災で全て流されました。綾乃さんのCDが1枚目です」。握手をしながら、私は必死に涙を堪えた。その女性は泣くどころか、笑顔を見せた。内側から命が輝いているようだった。悲しくも美しい笑顔だった。私はここに来るために今まで歌を続けて来たんだ。この女性に会うために。そう思えた。

 歌い続ける理由は沢山(たくさん)ある。いや、理由なんてなくていいのかもしれない。何故(なぜ)歌い続けるのかを知りたいからこそ、私は歌うのかもしれない。

 新しいCDを携えて、ツアーが始まった。私の歌を待っていてくれる人がいる。なんとも幸せなことだ。本当に有り難い。大阪、名古屋を終えて、次は東京へ。沖縄でも必ず。私は歌の旅をやめない。道を開拓することをやめない。これからも声ある限り歌い続ける。あなたに会うために。
(上間綾乃、歌手)