<南風>あんこクダサイ!!


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 こはく色の目をした彼は会社に入るなり笑顔で言った。「あんこクダサイ!!」

 当社は、通翻訳、外国語で行う調査や事務、人材育成を軸に、企業の海外取引や外国人観光客応対のお手伝いをしている。英語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語、フランス語の言語エキスパートとして仕事を支えるのは、7名の正社員に加え、登録スタッフと呼ばれる素晴らしきフリーランスたち。当社から依頼を受けた登録スタッフは、子育てや介護、自身の事業や学業の合間に仕事をこなし、期日通りに完成度の高い翻訳を提出してくれる。一方、社員たちは顧客の目的や要望をしっかり捉え、登録スタッフがベストを尽くせるよう、細心の注意を払い的確な指示を出す。両者の絶妙なコンビネーションと信頼があってこそ、プロの仕事は生まれている。

 その日、外国語のできるスタッフは全員外出していた。一人残された経理社員は「あんこ? ちょっと待ってね」とダッシュで冷蔵庫へ行き、必死で捜索するがあんこは見つからない。もう一度、登録スタッフに向き直り「社長に電話するからね」と言いながら親指と小指を受話器に見立てて、身振り手振りを繰り返す。しかし今度は、登録スタッフのほうが慌てて「あんこ、あんこ」と右で拳を握り、左の手のひらを激しくたたき始める。

 パニックの真っただ中、社員の一人が戻ってきた。Hの発音を無音化する言語の人にはよくあるようで、彼はあんこでなく、何かの書類に会社の「ハンコ」を押してほしかったのだ。通訳した社員に「ハンコが発音しにくいなら、これからはインカンっていいなさい!」と教えられていたらしい。時々、このようなエラーも起こるが、それもまたスタッフたちの間で笑い種(ぐさ)となり、絆を深める一幕となっている。
(石原地江、有限会社アンテナ代表取締役)