<南風>生かされて在ること


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 処暑になり、暑さも峠を迎えしと思いきや、太陽は強く大地を照りつける。それでも少し涼しき朝夕の風が、夏の終わりを告げる。

 振り向けば、過ぎ去りし夏の日が鮮やかに浮かぶ。明日が待ち遠しくて、早く朝になれと願った寝る時。日暮れても友と野球をした原っぱ。あの子と行った盆踊り。ドキドキと胸が踊った。

 兎(と)に角(かく)、まだまだ暑い。

 現場は、暑くて大変だ。職人さんには、頭が下がる。滴る汗を拭い、段取り良く熟練の技を見せる。

 人はひとりで生きて行けない。人に生かされている。生かされて在ることに感謝する。

 如何(いか)に優れた医師であろうと、ひとりで人を救えない。大勢の人の助けがあって、患者さんの役に立てる。

 建築も同じである。大勢の人が集い、共に汗を流して建物を創って行く。

 揺るぎない基礎の上に、しっかりとした躯体を創る。ここまでの工程は、肝心要である。施主様には、見えないところであるが、私達は、細心の注意で仕事をする。横浜都筑区マンション傾き事例など論外である。会社が大きく成り過ぎると、一部始終に目が届かなく他人任せになるのだろう。

 最近のマンション工事で苦労した。川沿いの土地で、端から軟弱地盤を予想していた。杭を入れ始めると汚泥の処理に難渋した。そして、深さ16メートルでも杭は支持層に届かない。設計の事前地盤調査は、2箇所のみで行われていた。地盤調査を追加し、新たに杭を注文した。特殊な杭で1カ月も待った。案の定、仕上げは、人をかき集めての突貫工事と相成った。

 施主様に怒られ散々である。

 然(しか)し、よくぞ皆さん、頑張った。人を守る建築物を創ったのだから。

 知者は惑わず
 仁者は憂えず
 勇者は懼(おそ)れず孔子曰(いわ)く

(東恩納厚、東恩納組代表取締役会長)