<南風>エイサーの季節


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 遠くにエイサー太鼓の音が聞こえる。島の子供なら、ほとんどの子がエイサーに憧れを抱く。

 私もそうだった。青年会に入団できる年になり、その門を叩(たた)いた。「踊り手ではなく、地謡として参加させてください」。会長に直談判し入団させてもらった。

 島全体を見ても、女性地謡はまだまだ少なかったが、7歳から民謡をやっていたので、ある程度の自信はあった。しかしエイサーとなると、また別物だということを思い知らされた。三線を弾いて歌うだけではなく、踊り手との呼吸、間合い、神経を研ぎ澄ます感覚だった。難しかったがとてもやりがいを感じていた。10年間地謡を務めた経験は、今の音楽活動にも活(い)きている。

 当時の練習は公民館の駐車場で夜の10時まで。熱が入ると時間を忘れて遅くまで練習することもあった。それでも近隣から苦情が出ないことは、島ならではの愛だと思っていた。

 ある日パトカーが公民館にやってきた。「近隣住民から音が大きいと苦情があってね」。なんと、通報されてしまったのだ。確かに太鼓の音は遠くまで響く。太鼓の音でかき消されてしまわぬよう、地謡も音響機材を通しているので、どうしても音は大きくなってしまう。

 お盆の伝統行事。先祖供養のため、地域貢献のためにと、仕事を終えてエイサー練習に汗を流す青年団の皆は肩を落とした。通報した方も様々な事情があったと思うが、どうか寛容に温かく見守っていてほしい。今を生きる人の幸せ、ご先祖様への祈り。そんな想(おも)いを込めての演舞だった。今も懐かしく思う。

 この記事が掲載される頃、私はCD発売記念ライヴツアーのため東京にいる。少し離れた地から手を合わせて明日、ウークイさびら。
(上間綾乃、歌手)