<南風>最後の夏休み


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 ユーミンの唄に「最後の春休み」という曲があるが、私の場合はアメリカの大学を卒業したので、最後の夏休みである。

 世界を自分の目で見たい。家から1メートルでも遠くへ行ってみたい。そんな生易しい希望を胸に、海外の大学へ進ませてもらったが、現実は厳しく授業についていくのに必死だった。勉強詰めの毎日から解放され6月の卒業式が終わると、最後の夏休みが待っていた。ニューヨークにある貿易会社へ就職が決まりそうなタイミングだったが、本当にそうしたいのか自分でもよく分からず、不確かな将来に悩むことを、いったん忘れて旅をすることにした。

 ゆっくりするなら、と友人から中南米のベリーズ島を紹介されたので、そこで10日程のんびり過ごすことにした。ビーチへ行って、泳いだり本を読んだりした。他にもまばらにヨーロッパ人がいるほかは人影もなく、ここならゆっくりと考え事もできると思った矢先…。

 ハロー。今日は何してるの? あなた中国人? どこから来たの? 質問は永遠に繰り返される。知的障害を感じさせるリリーは、毎日私にまとわりついた。ある日、彼に1ドル札をちらつかせ、飲み物を買ってくるよう頼んだ。しかし店は今閉まっているからと、ヤシの木に登り実を落としてジュースを飲ませてくれた。お礼にともう一度お金を渡そうとすると、彼はこう言った。「これは神様のものだ。お金は神様には持っていけない。どうしよう」。私は自分のみすぼらしいエゴに恥ずかしくなり、引き裂かれそうな思いになった。

 そのことがとげのように刺さったまま、旅の終わりが来た。そこで、私は答えを出した。沖縄に帰って地に足をつけ、一からがんばってみよう。沖縄でも世界とつながる仕事があるはずだ。こうして大きな宿題を完成し、私の最後の夏休みは幕を閉じた。
(石原地江、有限会社アンテナ代表取締役)