<南風>非日常の幕が開く


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 舞台は躍動の場だ。ホールは日々移り変わる催事を支える。今日はバレエ、明日は講演会、明後日はピアノ発表会。時には冠婚葬祭、人生の節目に利用される方もいる。様々な目的で様々な年代の人々がひのき舞台でスポットライトを浴びて主役を演じる。多くの人にとってその経験は特別なこと。非日常である。

 我々ホールスタッフの役割は、利用者がおぼろげにイメージする華やかな(時には厳粛な)舞台を具現化すること。利用者の想像を超えた非日常を創造することで感動、感嘆を呼び覚ます。利用者に満足を与えるのはプロならば当然、期待というハードルの上をどこまで高く飛べるか、ここがホールの真価である。てだこホールは最上級の劇場環境を整え、お迎えすることをビジョンの一つとしている。それは利用者、観客とともにそこで働く我々スタッフも含めた全ての人が非日常の中で笑顔になるために。

 非日常を日常として生きる我々。非日常が日常になってしまうと、どこに感動・感嘆が潜んでいるのか感知する力が鈍くなる。そうならないよう毎日のリセットが必要だ。

 撤収後の静まり返った舞台、凛(りん)とした空気が流れ、かすかな物音ひとつしない。先ほどまでの熱狂が嘘のように透明で凛々(りり)しい。「だれでもどんな催しでも受け入れますよ」と言わんばかりに舞台はどっしりと構え、存在感と安心感を醸し出す。そんな素舞台がリセットスイッチをオンにする。

 この文章が日の目を見る頃、ホールでは「てだこ演劇祭」の仕込み真っ只中。舞台では建て込みのなぐりの音がトンカントンカン鳴り響く。非日常を作りだす準備は慌ただしい。明日から劇団OZE、チームスポットジャンブル、演芸集団FECの公演が始まる。本ベルが鳴り、ボタンに手をかける。このボタンを押せば非日常への緞帳(どんちょう)が上がる。
(山口将紀、浦添市てだこホール総務企画課チーフ)