<南風>ソウルの今村昌平回顧展


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 9月24日まで、ソウルで今村昌平回顧展が開かれている。

 今村昌平は生涯で20本の映画を撮っていて、今回は17本をフィルムで上映するというのだから、立派な回顧展だ。共催している国際交流基金に招かれてソウルへ行ってきた。

 若い人は知らないかもしれないが、韓国は日本の大衆文化の流入を法律で禁止していた。韓国の映画ファンは日本映画を見ることができなかったし、今と違って日本でも韓国映画を見る機会は少なかった。

 韓国の体制が変わり、1998年にようやく自由化になった。解禁とともに、北野武監督の『HANABI』、黒澤明監督の『影武者』、そして『うなぎ』が上映された。

 今回の会場はソウル・アートシネマで、『うなぎ』の上映後に私が今村作品について講演し、キム・ホンジュン監督とトーク。翌日は『復讐するは我にあり』の上映後、観客と質疑応答である。どちらの作品も、観客はよく笑い、集中して見ていた。

 驚いたのは観客が若かったことだ。日本で今村特集をやると客席は老人ばかりなのだから。ポン・ジュノ、キム・ギドクをはじめ、今村映画に影響を受けた韓国の監督は多く、それも影響しているかもしれない。

 わざわざ昔の、外国の、しかも複雑でわかりにくい映画を見に来る観客たちである。レベルの高い質問が次々に飛び、中には私の映画のファンもいて、密度の濃い時間となった。

 面白い映画は国境を越える。40年近く前の緒形拳の凄(すご)さは、韓国の若者にちゃんと伝わる。私もまた、青春時代に見た韓国映画に衝撃を受けたことを思い出した。

 映画に世界を変える即効性はない。しかし、漢方薬のようにじわじわと人生に影響を与える。読者諸兄、たまには昔の凄い映画を見るのもいいものですよ。
(天願大介 日本映画大学学長映画監督、脚本家)