<南風>涙のイルカショー


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 イルカショーが泣けるのは私だけだろうか?

 水族館の外には大海原が広がっている。イルカ達もきっとそれに気づいているはずだ。「次にジャンプするのは、水族館生まれの〇〇ちゃーん!」。スタッフさんの声を合図に、勢いよく高くジャンプし、一瞬だけ背景の海と一体になったイルカは、水族館の水槽に着水した。

 客席から歓声が上がる。私はたまらず「今、海見えたよね? 見えるのに海を知らないの? 海に帰りたくないかな?」と涙ぐんでいた。そんな私に驚きながら姉が言った。「このイルカは幸せかもよ。綾乃もステージに立って、お客さんが喜んでくれたら嬉(うれ)しいでしょう?」。た、確かに。納得すると同時に、姉がそんなことを言ったことに驚いた。いつもはクールな姉が…。

 私はそのあとの水族館散策を、姪(めい)っ子の手を引きながら気丈に振る舞った。頭に“プロ意識”の文字がぐるぐるしていた。出演者の身に何が起きようと、幕は開く。最高に幸せな時も、出会ったことの無い悲しみに襲われた直後でも。今まで様々な壁や山を乗り越えてきたつもりだが、まだまだなんだろうな。この先何が起きるか想像がつかない。道のりは長く険しい。超えられない山ならトンネルを掘ればいいのでは?なんて考えが浮かんでは消えた。続けて“プロ意識”の文字が私の頬を打つ。お前は出来るのか? あのイルカのように、何があろうとも高くジャンプできるのか? いつの間にか先を走る姪っ子の笑い声にハッと我に返り、眉間にシワを寄せていたことに気づく。

 ジャンプ、綺麗だったなぁ。私達に感動を魅せてくれてありがとう。今度歌をあげようか? 辛い時は泣いてもいいんだぞ。あのイルカの肩を抱いてやりたい。イルカの肩がどこにあるかは分からないけれど。
(上間綾乃、歌手)