<南風>ベトナムの藍染め


社会
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 ベトナムの藍染めは印象深い。同国の80%余を占める主要民族はキン族で、他は53の少数民族で構成されている。北部の山岳地帯に居住する少数民族の衣装は藍染めが多い。ベトナム民俗学博物館の展示品を見ると、ほとんどの民族衣装が藍染めである。ハノイから夜行列車で中国国境のラオカイへ行き、そこから南下してサパを訪ねる。驚いたことに、いまだに女性たちは手績みの苧麻(ちょま)糸を用いた藍染めの民族衣装を装っている。1人や2人ではなく、ほとんどの女性たちが藍染めの衣装を着用している。

 さらにサパからカットカット村の黒モン族を訪ねる。そこは琉球藍と同じ藍植物が栽培され、大きな木製の桶で藍染めを行っている。藍玉の発酵には消石灰ではなく、木灰が使用されている。藍植物が山手の斜面に栽培されている光景は本県と全く同じである。ただ、植物はそれほど成長していないのに薄紫色の花が咲いているのは珍しかった。藍の花は、本部町伊豆味では滅多に見かけないからである。観光客は藍染めの民族衣装を欲しがるのだろうか、藍染め衣装が古びた売店の軒先まで並んでいる。

 さらに藍染めの帽子を被(かぶ)る黒モン族の村を離れてタフィン村の赤ザオ族を訪ねる。頭の被り布が赤色である。藍染めを基調にしながら赤色を多用している。村の女性たちは飾り金具や刺繍(ししゅう)が施された観光土産品を売るのが得意なようで、バスに乗って村を離れるまで追い掛け回された。

 ベトナムを旅したのは数年前だが、繊維製品に対する価値観には多少の違いを感じた。伝統的な手織りの製品よりも機械織りのしっかりした製品を好んでいるようだった。さて、どうだろうか、自らの手仕事製品を低く評価する事例は、本県でも戦前戦後に経験したように思う。今、山岳地帯の少数民族の生活文化は世替わりの途上にあるようだ。
(小橋川順市、琉球藍製造技術保存会顧問)