<南風>蠱毒(こどく)


社会
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 仕事で北海道に来ている。

 選挙で騒がしい東京も秋の気配だが、さすがに北海道は涼しい。夜は空気が冷たくて、9月の末なのにマフラーが欲しくなる。

 日本は南北に長いとあらためて思う。沖縄では12月から桜が咲くが、北海道の満開はゴールデンウィークだ。なのに入学式は桜満開というのは、あれは京都の桜のことで、小学校の教科書でそのイメージが作られたのだ。

 日本列島は豊かな多様性を持っている。近代に入り、その多様な日本を一つにまとめるために、国旗や国歌が必要になった。

 「美しい国」「強い日本」「正しい家族」なども同じで、つまり「保守」の側が必死に守ろうとしているのは、実体ではなくイメージなのである。

 だから彼らは多様性を目の敵にする。実体を無視して特定のイメージを押しつけ、はみ出した者を排除する(これが好きなのは左も一緒だが)。

 ちなみに、多様性を失った種は大抵絶滅する。多様性がないということは弱点が皆一緒ということで、たった一つのウィルスで全滅してしまうからだ。

 ――さて、今回の選挙は保守同士の睨(にら)み合いとなった。私にはどうも蛇と蠍(さそり)の争いに見える。

 その昔、中国に「蠱毒(こどく)」という呪術があった。毒を持つ虫や動物を容器に入れ、殺し合わせる。最後に生き残った一匹から最高の猛毒が取れるという。

 蛇と蠍、どちらが勝っても毒は強くなる。その毒を撒(ま)き散らし、オリンピックで嘘の日本のイメージを喧伝するだろう。これぞ「国難」ではないか。

 札幌の狸小路で飲みながら、しばし嘆いていたが、そのうち腹が立ってきた。

 イメージは、信じる者がいなければただの嘘だ。騙(だま)されてはいけない。王様は裸だ。ほとんどの桜は入学式には咲かないのである。
(天願大介 日本映画大学学長映画監督、脚本家)