<南風>東京の母


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 「お空と友達になりなさい」

 今思い出しても目が潤む。東京の母と慕う加藤登紀子さんには、有り難いことにインディーズ時代から可愛がってもらっている。会うたびに魂の喜びの様なものを感じ、言葉を交わさなくとも涙がでる。

 大好きな故郷から旅立ち、ホームシックを押し隠し、強がって差し伸べられた誰の手も取らなかった過去の私。優しい歌を歌いたいのに道に迷子で、張り詰めた心は壊れかけていた。いや今思えば壊れていたのかもしれない。

 「色々あったのね。けれど、あなたはそのままでいいのよ」。東京の母の言葉は一瞬で私に魔法をかけた。よく、“背中を押された・勇気をもらった”などの表現があるが、強く抱き締められ、“大きな空へ放ってくれた”という表現がしっくりくる。そのおかげで前に進むことができ、前作CDアルバム「魂うた」を発表することができた。

 コンサートに駆けつけてくれた登紀子さんに、終演後込み上げる感情を抑えて聞いてみた。「私、お空と友達になれてましたか?」。その問いの応えに登紀子さんは満面の笑みで抱き締めてくれた。

 大先輩の背中を追いかけ、時に腕に抱かれて、私の唄は育っていく。変わらずにいること、変わりながら成長することの大切さを噛(か)み締めている。

 これからは、差し伸べられた手を素直に取って生きようと思う。人は独りではないから。顔を上げると、きっといつも大切な人達がいる。私も誰かの大切な人になろう。次の世代に格好いい背中を見せられる唄者になろう。

 11月18日、沖縄市音市場で加藤登紀子さんのほろ酔いコンサートが行われる。東京の母に会いに行こうと思う。皆さんもご一緒にどうですか? 愛に溢(あふ)れて幸せになれますよ。
(上間綾乃、歌手)