<南風>生きている奇跡


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 霜降も近く、冷たく爽やかに風が吹く。眺むれば、幾筋もの雨が、竜田姫の織りなす唐紅の山肌を包む。通りに出ずれば、山吹の銀杏(いちょう)の葉が舞い落ち秋である。

 我が人生も秋である。

 嘗(かつ)て太宰に気触(かぶ)れ、落ちて行くことに陶酔し無為に過ごした。葉蔵に自身を重ね、生きる理由を探した。

 医師になろうと決めた時から、勉強に集中し苦しみより解き放たれた。

 今の私は、生きることに理由を求めず、生きている奇跡の日々に感謝し、仁を以(も)って他人に接し、ついに逝く日を覚悟している。

 今やることは、より善き会社にして大きな利益を出し、社員と協力会社とその家族を物心ともに幸福にすることである。

 より善き会社とは、人や社会に必要とされ応えることのできる会社である。

 2011年に会社の経営に関わり、赤字を黒字に変えることは容易であった。元より稼げる会社であり、販管費を削減しただけである。

 私は、弊社の過去10年を、Missing link(失われた環)に例えている。その間に多くが失われた。

 一般に企業の経営資源は、ヒト、モノ、カネ、情報、知恵、技術、強み(Core competence)と言われている。

 私は、感性と創造性を加えているが、一番の財産が、ヒトであることに論を俟(ま)たない。

 先(ま)ず、優秀で良質な人材の維持と確保を優先した。また、将来に向けて毎年の新入社員を受け入れ、その育成を行っていく。

 そして私は、失った情熱とモチベーションを再び社員に懐(いだ)かせる為に、日々社員に語り掛けている。

 まだまだ、やるべき多くのことがある。

 人は城

 人は石垣

 人は堀

 情けは味方

 仇は敵なり

信玄

(東恩納厚、東恩納組代表取締役会長)