<南風>足るを知る


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 我が家は2011年4月に家族4人で沖縄にやってきた、いわゆる沖縄移住組。当時はたまたま震災の直後ということもあり、「大変ですね」とご心配いただくこともあったが、単純に沖縄が大好きで移ってきただけだ。25年前の沖縄自転車旅から積もり積もった思いをやっと実現させたのだ。移住に関しては夫婦ともに意見が一致していて、「大好きな土地に住む」という選択肢一択のみで走ってきた。

 人は仕事をし、その引き換えに生活の糧を得ている。このことから考えれば、「仕事のある場所に住む」ことの方が道理が通る。好きな場所というだけで、住む場所を決めたことは少し違った選択なのかもしれない。しかし、我が家はいまのところ沖縄の自然と人という恵まれた環境の中で「足る」生活をさせてもらっている。人とは違った選択の仕方をしたかもしれないが、自信をもってその選択は正解だったと言える。

 人は常に選択をして人生を重ねていく。選択肢を目の前にして悩んで考えることは、その先の自分の姿を想像し、可能性を模索することと等しい。悩むことはネガティブなことではなく、次のステップに進むために必要な作業だ。リスクばかり計算し、ためらっていては自らの意思を曲げることにもなりかねない。時には見えない翼を広げて飛び立つことも必要だ。

 我が家では「足るを知る」という言葉がよく使われる。満足を知っている者は心豊かに生きることができるという意味。「足るを知る」ほど物心ともに身軽になり、リスクを計算する負担が軽減する。比較や競争を強いられる現代では、貪欲さが求められる場面も多いが、足るを知れば多様な選択をたやすく受け入れられる。

 年齢を重ねるごとに物欲がなくなってきた。子供を持つと自分優先という感覚が薄れていく。「足るを知る」で生きていきたい。
(山口将紀、浦添市てだこホール総務企画課チーフ)