<南風>吃音に学ぶ


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 言語聴覚士の領域の中で、吃音(どもり)の領域がある。吃音は100人に1人の割合と言われているが、吃音の領域に積極的に関わっている言語聴覚士はほとんどいないのが現状である。

 私も吃音に関しては無知で、臨床をしたことがなかった。8年前、吃音の講義を担当することになり、教科書とのにらめっこでのスタートだった。しかし、内容に多々疑問を感じるようになった。吃音は悪いものではない、どもってもいいんだよという一方で、吃音を軽減するような言語治療が存在する。2年くらいその矛盾に悶々(もんもん)と過ごした。

 しかし、6年前に、千葉県で開催されていた吃音の講習会に参加した際にどもる当事者である伊藤伸二さんと、その仲間との出会いがあった。その出会いで、私が腑(ふ)に落ちなかった矛盾に当事者は悩まされていることを知った。その日から、私は吃音の世界にどっぷりつかることとなった。

 専門家が集まれば、皆が同じ意見ではなく、派閥も出てくる。それぞれの意見の良いとこ取りのような中途半端なことはしたくない。専門家として、人として自分の信念を持ち、納得できることを提供したい。それを目の前で悩んでいる人に伝えたい。人として誠実に向き合っていきたい。

 伊藤さんは「吃音は哲学だ」と言う。どもる子どもの臨床は予防教育。その子がどもりながらも自分らしく幸せになるのが目標だ。どもるという、見えている現象そのものにアプローチするのではなく、先を見据えた関わりが大事だと思う。

 吃音を学ぶ導入は、言語聴覚士としてできることを学ぶはずだったが、自分の人生の振り返り、そしてこれから。子育てに大切にしたいことなどたくさんのことを学んだ。

 これからも人生の節目節目にいろいろ教えてくれる「吃音」と共に、豊かな人生を過ごしたい。
(平良和 沖縄リハビリテーション福祉学院教員、言語聴覚士)