<南風>国が救わず、誰が救う


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 犯罪の被害にあった時、私達には何ができるのだろうか。現代社会においては人を罰するのは国の仕事で、犯罪の当事者である被害者は刑事司法手続きにおいて当事者とは考えられていない。犯罪被害者にできることは、自分の被害を金銭に置き換えて、民事裁判で損害賠償請求をすることのみである。ところが、高額の損害賠償を勝ち取っても、加害者の多くは資力がない。さらに、加害者が刑務所に入ってしまうと、受刑者が刑務作業で受け取るお金は月平均5千円程度な上、これを被害者に送る義務すらない。

 加害者に資力がない時はどうするか。犯罪の被害にあったのに何の補償も受けられないのは同じ国民としてかわいそうだという「相互共助の精神」で、1981年に始まったのが「犯罪被害者給付金」制度だ。これは当初は「お見舞金」と考えられ、その金額はとても安かったが、現在では最高で、重度の障害が残った場合には約4千万円、一家の生計を維持する方が亡くなった場合には約3千万円が受け取れるようにはなった。これは一見高いようにも見える。だが、家族を支える年収350万円の方が30歳で殺されたとする。定年を60歳として、この方がそれまでに稼ぐ金額は単純に計算して1億500万円だ。小さなお子さんのいる家庭でこの収入が失われたらどうなるだろうか。

 損害賠償金を、まずは国が立て替えて、その後、国が加害者から払える分を分割で取り立てるという案がある。これに対して、そんなことをしたら日本の経済が破たんすると批判する人がいる。2016年に支払われた犯罪被害者給付金の総額は約9億円。私の尊敬する弁護士の方もおっしゃっていたが、オスプレイは1機約100億円。これを少し被害者や被害者遺族のために使ってはと思うのは間違っているだろうか。
(矢野恵美、琉球大学法科大学院教授)