<南風>犯罪被害は自己責任ではない


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 世界でもスウェーデンとノルウェーだけに、「犯罪被害者庁」という犯罪被害者の問題だけを扱う独立した省庁がある。

 スウェーデンの犯罪被害者庁を例にとると、その役割の一つに、犯罪被害補償金の支払いがある。加害者に資力がなく、保険の適用もない場合に、加害者に代わって国が補償する。日本では犯罪被害者給付金にあたるが、大きく違う点の一つは、被害者庁が加害者と話し合い、最長で10年間、加害者が返せる範囲で返済計画を立てる点だ。返しきれない部分は国が負担する。被害者はこれに一切かかわらなくて良い。

 また、犯罪被害者庁は、被害者支援団体や被害者研究に資金を配分する(犯罪被害者基金)。有罪判決を受けた人から、一有罪判決につき約1万1200円を徴収したものがその財源だ。もし、日本で同じように有罪判決を受けた人から1万円を徴収すると、実に33億3331万円にもなる(2015年)。

 さらに、犯罪被害者庁は、法の専門家や一般市民向けに繰り返し研修を行い、また、4歳から17歳までの子ども達用の年齢層別の様々な教材も作成している。アプリもある。幼稚園の子どもに児童虐待について教える教員のための教材もある。

 スウェーデンは制度が違い、人口が少ないからできるのだと言われることもある。しかし人口約1千万人の国で、犯罪被害者のためだけの省庁で働く職員は約80人。2016年の犯罪被害補償金は約16億円。人口約13倍の日本の同年の犯罪被害給付金は約9億円。これは単に国の犯罪に対する考え方の違いではないか。誰でも犯罪被害にあう可能性がある。加害者から損害賠償を得られないのは被害者の自己責任ではない。他国を称賛したいのではない。私達にもできるのではないかと思うのだ。
(矢野恵美、琉球大学法科大学院教授)