<南風>ハワイからの贈り物


社会
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 生まれ育ったうるま市にひとつの物語がある。ハワイから届いた豚の贈り物。

 戦前、沖縄県内に10万頭以上いた豚は、沖縄戦によって約7700頭まで激減した。食糧難に陥った故郷の悲惨な状況を聞き「沖縄の食文化の要である豚を送ろう」と69年前、ハワイに住むウチナーンチュが約5万ドルを募り、米国本土で豚を買い、嵐や機雷の中、命がけで海を渡り、うるま市勝連のホワイトビーチに550頭の豚が届いた。

 その豚輸送人7名のうち4名の出身地がうるま市であり、輸送に尽力した当時の沖縄県知事志喜屋孝信も旧具志川市出身であった。また、うるま市は養豚も盛んなことから「戦後養豚発祥の地」として、うるま市で語り継ぐ物語のひとつになっている。

 豚は4年後、10万頭にまで増えたといわれる。

 その後、ハワイの豚を巡り、市内や県内の小学校の学芸会で題材として取り上げられ、高校英語教科書への採用、BEGINの豚の音がえしコンサート、ミュージカル「海から豚がやってきた」、うるま市民芸術劇場には豚のモニュメントが建設された。

 そして来年、豚が届いて70年の節目を迎え、沖縄県内の豚肉料理のナンバーワンを決める「BU―1選手権」が開催される。

 当たり前のように食卓に並ぶ沖縄の豚肉に、ハワイや海外に移民した県系人たちの熱い思いがあったことを忘れてはいけない。

 1900年に沖縄初の移民がハワイに渡ってから117年。世界中に送り出された沖縄移民者は今や約42万人にも及ぶ。戦前戦後にわたって莫大(ばくだい)な仕送りを続け、それが沖縄の日々の暮らしを支えてきた。

 豚肉文化を救った先人たちへの感謝を込め、世界のウチナーンチュとふるさと沖縄との固い絆を象徴的に示すエピソードとして、未来永劫(えいごう)語り継いでいきたい。
(玉元三奈美、世界若者ウチナーンチュ連合会代表理事)