<南風>リーダーの条件


社会
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 若い頃、この高名な学者とは、終生縁がないものと考えていた。著書にしても、哲学や宗教、歴史や文学と多方面に亘(わた)っていたが、とりわけ興味を抱くこともなかった。これまでの京都学派の著名な学者とは打って変わって、異質で風変わりにも見えた。哲学者の梅原猛氏は、怨霊の研究をしてみたり、スーパー歌舞伎の戯曲を創作したり、「隠された十字架」や「水底の歌」等の著書により、古代史の通説に異を唱えるなど、盛んに議論を巻き起こしていた。そのような理由から、これまで馴染(なじ)めずにいた。

 ところが、数年前に古書店で何気なく手にした「自然と人生」(文芸春秋)を一読した瞬間、状況は一変した。氏のエッセイを初めて耽読(たんどく)した私は、驚きと感動を禁じ得ず、にわかに氏への認識を改めた。特に「リーダーの7つの条件」なるエッセイは、通常のノウハウ的な読み物とは異なり、人間性と高い倫理に根ざしたまさに哲学者が論じたリーダー論で、示唆に富み、読み応えがあった。氏のエッセイ集を読破していくうちに、その異端的な言動の真意も理解できた。

 氏が掲げるリーダーの条件とは、(1)孤独に耐える(2)時代の理念がその人に乗り移っている(3)熱い情熱と冷徹な知性(4)修羅場に強い(5)怨霊の鎮魂が巧みである(6)危険予知とそれに備える嗅覚(7)無私と出処進退、ということで、これはまさしく氏のリーダーシップそのものである。「異端こそ、真の意味の創造者であり、次代の本流だ」の言葉通り、梅原理論は今や梅原日本学として広く認知されるようになった。「自己の内なる理性で納得できないものは、徹底的に疑う。それが哲学であり、そこにこそ、真理の発見はあるものだ」

 梅原氏の勇気ある生き方は今、私の心の奥底でひとり屹立(きつりつ)し、高い嶺となって凛(りん)と聳(そび)え立っている。
(山城勝、県経営者協会常務理事)