<南風>45分間の真剣勝負


社会
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 浦添市てだこホールでは毎年市内の小学校に演奏家を派遣して、音楽の出前授業を実施している。「てだこのみみぐすい(耳薬)」と題し、今年は6校にお伺いする予定だ。

 目的は音楽への親和性、創造力、表現力を高めてもらうこと。もちろん将来のお客様や出演者としてホールに親しみを持ってほしいとの意図もある。また、演奏家にとっては伝える力をスキルアップできる絶好の機会でもある。

 音楽室という小さな空間で1クラス35人を対象として行うので、演奏が披露されるのは児童の目の前だ。まさに演奏家と児童の真剣勝負の45分。児童全員と必ず1回は目を合わせながら行う授業は伝える力が強くなり、聴く側の姿勢も自然と前のめりになる。体育館で全校生徒一緒に鑑賞するのとは違い、音楽に対してより主体的に向き合い、感じて、考えてもらえる空間になる。

 中にはもちろん音楽に興味のない児童もいる。そんな子をどうやってこちらに振り向かせるかは演奏家の実力次第。演奏する曲、話す内容、人柄にどれだけ共感させられるかにかかっている。人は自分の経験とシンクロする部分があれば、親しみを感じたり、聴く耳を持ってくれたりする。

 ある時、あまり興味なさそうにしていた児童がピタッとアーティストに視線を向けた。野球の話をした時だった。それをきっかけにたぶん野球部であろう彼の姿勢がどんどんよくなり、最後には笑顔で音楽室から帰っていった。全く違った切り口からのアプローチが音楽への入り口になることもある。演奏家は観客が育てると言うが、まさにその通り。純粋でまっすぐな児童の視線は心に突き刺さる。演奏家にとってはその視線は最高の賛美になる。

 来週からお伺いする小学校の皆さん、楽しい時間を一緒に創りましょう。

(山口将紀、浦添市てだこホール 総務企画課チーフ)