<南風>生きろ。


社会
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 「生きろ。」というキャッチコピーがつけられたスタジオジブリの映画「もののけ姫」が公開されたのは、1997年だった。

 この映画に大きな影響を与えたものの一つに、一遍上人の絵巻物があり、これまでの武士―農民という世界観とは異なる時代劇を描きたかったと宮崎駿さんは語っている。

 一遍上人は、鎌倉時代に時宗という仏教の一派を開いた人物で、絵巻物にはお坊さんや武士が登場する一方で、牛で物を運ぶ人など多彩な生業の人々が描かれている。なかでも目を引くのは様々ないでたちの人物で、その中にハンセン病を患う者もいたという。

 宮崎監督は映画をつくる過程で、自宅からほど近いハンセン病療養所多磨全生園やハンセン病資料館に度々足を運んだようで、映画に業病とされる病気を患い、隔離された人々も登場する。

 子どもたちにとって、身近ではないハンセン病という病気やその問題を考えるきっかけとして、私は「もののけ姫」の話をしたりするが、ジブリ作品であっても20年前の作品ともなると、みなが知っているものではないようだ。

 映画に織り込まれたハンセン病をめぐるメッセージの私の解釈は、ここでしないが、映画の公開が、「らい予防法」廃止の翌年であることを念頭に見ていただけたらと思う。

 自然や神の世界と人の世界にそれぞれ立つ2人の主人公は、大きな断絶や許すことのできない思いを抱えながら、それでも共に生きようと誓った。

 2人が誓うその未来は、はっきりと見通せるものでも、決して明るいものでもないだろう。それは私たちの生きる世界を映す鏡でもある。

 映画の中で通奏低音のように響き続ける「生きろ。」という言葉は、私たちの元へも発せられている。
(辻央、沖縄愛楽園交流会館学芸員)