<南風>沖縄での映画体験


社会
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 中学生の頃、映画に夢中になった。高校は都立の全寮制でTVは禁止、週末に都心へ出ては映画をはしごした。金がないので名画座中心だ。

 帰寮の途中古本屋で「キネマ旬報」のバックナンバーを買う。当時「キネ旬」にはシナリオ採録が掲載されていて、平日はそれを繰り返し読み、映画の記憶を反芻(はんすう)するのである。文字から、あの素晴らしい場面が立ち上がり、音楽が頭に鳴り響く。

 入れ替え制なんてなかったから、気に入った作品は映画館に居座って繰り返し見る。最後は腹が減ってへろへろになったけど、同じように一日中見ている客が何人もいた。

 大学で沖縄に来ても、映画が見たくてしょうがない。

 沖縄でも新作のメジャー映画は、遅れて見ることができた。邦画も洋画もたいてい2本立てで、得した気分である。だが、後になって見返すと、記憶にないシーンがある。上映時間短縮のため編集されていたのだ。

 週末はオールナイトでロマン・ポルノやヤクザ映画を朝まで見る。それでも足りず、バイクに乗って小さな映画館を回った。当時はまだあちこちに、壊れかけた映画館が残っていた。何を上映しているのか行くまでわからないし、聞いたこともない古い映画が多かった。

 上映環境は最悪だ。空調がないので、休憩時間に雨戸を開けて空気を入れ換える。客が席で煙草(たばこ)を吸うから、映写機の光の線が見える。フィルムはズタズタ、音もひどい。フィルムが引っかかって燃えあがり、よく中断した。再開するまで、暗闇の中でじっと待つ。

 それでも映画が見られれば嬉(うれ)しかった。青春時代、沖縄での映画体験は、僕の「映画の足腰」を確実に鍛えてくれたと思う。

 ネットもレンタル・ビデオもまだなかった時代の話です。

(天願大介、日本映画大学学長映画監督、脚本家)