<南風>医者の不養生


社会
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 雪が降っていた。

 教室の窓の外を見ると、花風に舞い散る桜の様に、雪が降っていた。外に出て空を仰ぎ観(み)ると、まるで別の世界から刹那に雪は降って来た。

 人の一生は、雪の様に儚(はかな)い。斯(か)くも短い人生の後半で、私は、医師を辞め建設会社の経営者になった。

 医師の時は、殆(ほとん)ど家と病院の往復であった。今は、付き合いも多く1年で8キロ体重が増えた。結果、血圧が上がり知人の医院を訪れ降圧剤を服用する次第である。

 起床後は、勉強に費やし、日課の運動もやめてしまった。控えていた肉類も食べ飲酒量も増えた。

 恐らく10年以上は、寿命を縮めたに相違ない。

 こんな患者を目の前にしたら、以前の私は、生活習慣の改善を懇々と諭すだろう。

 先(ま)ず、減量しなさい。あなたの理想的な体重は、65キロです。少なくとも、10キロ体重を減らしましょう。お酒は、3日間休肝日を置いて、ビールなら1本、適量にしてください。食事は、腹六分とし、八分ではないですよ、六分ですよ。歩きましょう。兎(と)に角、30分以上、できるだけ早足で歩いて下さい。そうすれば、今飲んでいる降圧剤も減りますよ。お金の無駄、命の無駄です。病気は、予防が大事です。病気を作らない。

 今なら得心がいく。

 どうりで私の内科の患者さんは、少なかったわけだ。

 愛する父を亡くし、泣いて、泣いて、泣いた日々があり、今の私が居る。

 長生きはできないが、一日一生の覚悟でこの仕事を努めていく。

 踊る阿呆(あほう)に見る阿呆、私は、踊る阿呆で、400年先へと人を育て、人を残して逝く。

  願はくは
  花の下にて
  春死なん
  その如月の
  望月のころ西行

(東恩納厚、東恩納組代表取締役会長)