<南風>足元の宝物


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 我が家のベランダからまっすぐ見上げると浦添城跡が街全体を見守るように鎮座している。その昔、中山(本島中部)を支配した拠点であり、今は国指定の史跡だ。首里城に移る前の政権拠点である。石積みの城壁と浦添ようどれと呼ばれる王墓が見事に再現され、当時の佇(たたず)まいを偲(しの)ぶことができる。静寂の中に凛(りん)とした空気が流れ、背筋をピンと伸ばしたくなる。那覇の新都心の高層ビル群から普天間基地、北には読谷の残波岬が望める、その頂からの景色は格別だ。

 今年公開された映画「ハクソー・リッジ」の舞台・前田高地はその浦添城跡と重なり、ハクソーリッジ(弓鋸(のこぎり)の尾根)と呼ばれた場所は浦添ようどれのすぐ隣。その昔、琉球の平和を目指した王の墓の隣で最悪の地上戦が繰り広げられたことになる。どんな気持ちでその痛ましい音・景色を眺めていただろう。悲しみに暮れる王の姿が目に浮かぶ。

 自分の住んでいる地域に息づく名所旧跡は近すぎて目がいかないことがある。在るのが当たり前でその歴史や良さは意外と外から教えられることが多い。

 浦添城跡のほど近く、前田トンネルの上にあるのが組踊の祖・玉城朝薫の墓。その墓から見下ろすと建設中のモノレールがなめらかなカーブを描く。まるで琉球舞踊のしなやかさを表現するような見事な曲線。こんな形にも、期せずして組踊の所作が表れているのかと感嘆する。そのほかにも浦添市内には普天間参詣道の当山の石畳など数々の史跡が点在している。

 これらの見どころの多くは毎年2月に開催されるてだこウォークの中で巡ることができる。移動速度が遅いほどその土地とじっくり向き合える、が持論の我が家。道端に佇む植物も自然と目に飛び込んでくる。

 今一度地元の地域資源を見つめ直すきっかけに歩いてみてはいかがでしょう。
(山口将紀、浦添市てだこホール総務企画課チーフ)