<南風>工芸は地域文化産業


社会
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 天然染料の琉球藍(藍玉)は、本県染織物にとって無くてはならない貴重な染色材料である。かつて昭和50年代に藍草の栽培不振などで藍玉が製造されなかったことがある。このため染織業界が大騒ぎし、新聞でも大きく取り上げられた。ここ2年ほどの出来事も藍玉不足の点では共通している。

 いずれも無形文化財選定保存技術保持者の伊野波盛正氏が所有する琉球藍製造所での藍玉製造不振が主な原因である。背景を考えると、一つに、主たる製造者の伊野波氏が高齢で現役を引退されたこと、二つに、藍草の収穫量が圧倒的に不足していることがある。

 かつて藍草の栽培農家を対象に作付面積に応じた県補助金が交付されていたが、同事業は平成16年度で廃止されている。それが直接的な原因とは断定できないが、少なからず影響を与えていることは否めない。金額的には僅(わず)かな補助額であったが、行財政改革の対象になってきた。ここに至っては県施策の先読みが適当でなかったことになる。

 本県の工芸産業は、主要産業の観光産業を根底で支える地域文化産業だと筆者は認識している。金額的には大きくないが、観光客を魅了する歴史的文化的な価値は十分に保有している。本県観光パンフレットは琉球紅型や芭蕉布、壺屋焼など、所狭しと紙面を埋めている。琉球舞踊や組踊の衣装は鮮やかな琉球紅型であり、広く本県の芸能文化を背負っている。その存在価値は年間生産額の大小で評価できるものではない。

 本県の伝統工芸産業は一つの法律(伝統的工芸品産業の振興に関する法律)と、一つの条例(沖縄県伝統工芸産業振興条例)で支えられている。本県条例の制定が国の法律より1年先行している。復帰前後の本県土産品が外来の洋酒や煙草(たばこ)類だったことを考えると、伝統工芸産業の成長には隔世の感がある。
(小橋川順市、琉球藍製造技術保存会顧問)