<南風>建築は細部にあり


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 熱々と、匂い立ちこめ、柚子(ゆず)のお湯、小夜吹く風に聞く冬の音。

 我が拙文も最後である。

 光陰矢の如(ごと)く人を待たない。

 医師を辞めた人生を正解とは思わぬが、天の定めしことである。父を亡くし、父を感じたくてこの仕事を始めた。夜深けに起きて、その日に廻(まわ)る現場の図面を観(み)る。一年前なら解(わか)る筈(はず)も無いが、日々の学びは、闇に明かりを灯してくれた。

 近代建築の三大巨匠のひとりLudwig Mies van der Roheが好んで使った言葉に、「神は細部に宿る(God is in the detail)」がある。

 私は、これに強く惹(ひ)かれる。建築に限らず、細かい部分まで丁寧に仕上げてこそ、仕事を為したことになろう。

 完成した建築物から、基礎や躯体の詳細を伺い知ることは出来ない。見栄えも大事であるが、その裏に隠れた構造物が人を守るのである。その為には、細部まで仕事が為されていなければいけない。

 命を守る建築家は、己も人も信用してはならない。他人任せにすれば、誤りを見逃してしまう。代理人任せにすれば、誤りを是正出来ない。設計図書であろうと信じない。自身で確(しっか)りと読み込み、施工図を描き承

認を得て工事を進めて行く。

 私は、今日も現場を廻り、皆と共に安全を最優先した人を守り、心地良く、美しい建築物を創って行く。

 そして、社員を大切にした企業経営を行う。

 母に孝を尽くし、父に代わって妹達を大切に生きて行く。

 妻とは、天に在れば比翼の鳥の如く、地に在れば連理の枝に成りたい。

 此(こ)れまで、我が拙い文章を読んで下さった読者の皆様、有難うございました。

  あふときは

  語りつくすと

  思えども

  別れとなれば

  残る言の葉主税

(東恩納厚、東恩納組代表取締役会長)